顔面神経麻痺闘病記 パート1

院長イラスト

ゴールデンウィークのある日のこと、その日はとても忙しく夜にはへとへとに疲れ切っていた。

就寝前に歯を磨いていた時、口の左側から口に含んでいた水がピューッとふき出した。

それはまるで歯科治療で歯に麻酔を受けた後、唇が麻痺して水がこぼれだすのと同じ症状であった。

その症状がいきなり現れたので、てっきり脳卒中なのではないかと思いおののいた。

看護師である妻を呼び、いろいろテストをしてみたが、顔面の麻痺以外は脳卒中の兆候は見られなかった。

救急病院に駆け込もうかとも思ったが、翌朝まで様子を見ることにした。

(朝ちゃんと起きてこれるかどうか、めっちゃ不安だった。)

翌朝一番で救急外来に駆け込みCTスキャン他いろいろな検査の結果、顔面神経麻痺であろうということになり、耳鼻科にまわされた。

(顔面神経麻痺が耳鼻科の病気とは知らなかった。)

耳鼻科では重症ではないが、軽症でもないと言われ、一か月分の薬を処方され、自分でマッサージを施すようにとの指示を受けた。

それから毎日指示通りのことを行ったが、期待に反し一向に良くならない。

特に困ったのは食事と会話だった。

食事では、食べたものが左の頬の内側にたまって、まるでリスが食べ物を頬袋にためたみたいになる。

だから時々そこから掻き出さなければならないのが鬱陶しい。

麺類などはうつむき加減で啜らなければならないため、食べづらいったらありゃしない。

もっとも困ったのはくし形に切られたスイカを食べた時だった。

かぶりついても果汁が全部こぼれ落ちてまったく口に入ってこない。

(その後は一口ずつ食べられるように小さくカットしてもらうようにした。)

意外にも菓子パンなども思ったように口が開かないためか食べづらかった。

(だから上品に一口ずつ手でちぎって食べることにした。)

スープやカレーなどのようにスプーンを使って食べなければいけないものもテクニックを要した。

唇がうまく使えないためきれいに食べられないのだ。

(口の周りがベトベトになり、何度も口を拭わなければならない。)

健康な時にはまったく感じていなかったが、自分でも知らないうちに上手に口や舌や頬の筋肉が働いてくれていることを実感した。

パート2に続く